【Virtual Beingsインタビュー#05】VR建築家 番匠カンナさん(banjokanna)・マル知る!
VR方面で活動されている方をご紹介するシリーズのこちらの記事
【Virtual Beingsインタビュー】合同VR作品展示ワールド「Beyond Reality」
にて合同VR作品展示ワールド「Beyond Reality」を紹介いたしました。
記事内で「Beyond Reality」の会場設計を担当されている番匠カンナさんをご紹介いたしました。
今回は番匠カンナさんにVR建築家としての活動についてインタビューさせていただきました。
番匠カンナさん
twitter:@Banjo_Kanna
VRChat:banjokanna
ホームページ:番匠カンナ バーチャル建築設計事務所
制作ワールド一覧はこちら――VRChatの世界(β)から引用
YouTubeチャンネル:「Banjo Kanna Channel」
BOOTHショップ:「Banjo Kanna Channel」
――本日は番匠カンナさんが作られたワールドを回りながら、VR建築についてお話をうかがせていただきたく思います。よろしくお願いいたします。

■Visionnaire「ニュートン記念堂」
・番匠カンナさんが最初に作ったワールドで待ち合わせ。18世紀の建築家が残した建築案をVRで再現したワールドです。入り口の解説とドローイング(設計イメージ図)を突き抜けて入場するのがとてもVR。
――こちらのワールドは、入り口の解説文にあった通り「幻視の建築家(Visionnaire)」と呼ばれたエティエンヌ・ルイ・ブーレーという建築家が設計した建物のうちのひとつをVR内で作ったものなんですね。

――このニュートン記念堂は、設計はされたものの、実際には作られなかったとのことですが。

――実作に作られなかった、というのが素人の私にも分かります。大きすぎるような・・・作られなかったのも当たり前というか。


・遠景に見えるなんだか丸く可愛らしい建物。ですが歩いていくと次第に分かってきます。なかなか到着しません。あまりに建物が大きいのです。
――そうなんですか。それで幻視の建築家と呼ばれているんですね。

――正面のトンネルを抜けると、中は巨大な球体がまるまる吹き抜けの構造なんですね! 内部の詳細は設計図では確認しきれないと思うのですが、番匠カンナさんがデザインを補足したんでしょうか。

――1F中央のオブジェクトを上階へのテレポーターにしてあるのは、まさにVRですし、デザインのセンスですね。

――詳しくは分からないんですね。そしてよく見ると人影も描いてありますね。すごいスケール感です。

・この内部構造図の中央下の部分にいま番匠カンナさんと記者が立っています。
――そして1F中央から2Fへ移動できるんですね。2Fは一面に透明の床が設置されています。これはVRならではの表現ですね。

――ドローイングの前にタイトルが。「王立図書館」


・透明な床で巨大な球体の中空を歩くのは現実ではまず設計できないVRな体験なので、現実ではまず作ることが出来ないこのニュートン記念堂と意味を同じくする設計なのがエモさを感じます。
そして2Fに配置されたエティエンヌ・ルイ・ブーレーのドローイングは誰が見てもどれも面白いものばかりです。ぜひご来場してご確認を。
――本当だ、人が小さい!途方もないスケールですね。

――当時の技術では不可能ですよね。

――ちょっとどれだけの広さの空間か分かりませんね・・・

・この場の多数のドローイングを番匠カンナさんに解説・紹介していただくだけで記事が2、3本作れそうです。

――描かれている人間や木のサイズから、建物の寸法も推測して合わせてあるんですね。

――こちらは中央に球体が吊られておらず、プラネタリウムのようですね。

――どう照射するかは分からない(笑)

・謎のプラネタリウム技術で星空を投影するんだよ、という案に対して、もう一方は一見地味ですが・・・

――あ、確かに溝?みたいなものが描かれていますね。

――あー!(笑)

・謎の妄想技術でなく力技で実現しようという感じが逆にトンデモさが際立つ設計案です。エティエンヌ・ルイ・ブーレー恐るべし。
――今回VR化するにあたって、アストロラーベを配置し、内壁はプラネタリウムの様にする折衷案みたいな形をとっているんですね。


――巨大で美しいですね。ここがちょうど球体の中央部分になるんですね。周囲にボールが配置されていますがこれは?掴んで投げると尾を引いて飛んでいき、そして戻ってくるんですね。

――VRで創作活動をされている方は情報交換やコラボが本当に活発ですね。
・素敵オブジェクトの制作者、ブタジエンC4H6さんはこちらの記事【Virtual Beingsインタビュー】月刊エモいワールド制作者 落雷さん(rakurai5)にも、空飛ぶ箒ギミックやパーティクル桜の木の制作者としてお名前が登場しています。
■VRを始めたきっかけはミライアカリのVRChat回
――「Visionnaire」を解説していただき、サムネイル用の素敵な画像も撮れたところで、番匠カンナさんのVRクリエイターとしての活動をお聞きしたいと思います。VR建築家という珍しい肩書なのですが、やはりプロの建築関連の方なのでしょうか。

――やはりプロの方なんですね。そうすると元々、3Dモデリングなどに近しい世界の方だと思うのですが、VRシステムやVRChatはいつ頃から触れられたのでしょうか。

――VRやVRChatを知って、触れてみようと思ったきっかけはどのような。

――そうですね、初期のころVRChatに行く回がありました。

――私は、幾人かのVRを触っている方にお話を伺ったことがあるのですが、VRを見た感想が「空間じゃん」という方は初めてでして。この「空間じゃん」というのはどういった意味なのでしょうか。

――生活している?

――ひとりでの体験は違うんですか。

――3Dモデリングで作られた空間があって、それをHMDで没入感を感じられる、というだけとは違うんですね。そこに複数の人がいて、交流していて、生活している。それが魅力なんですね。

――なるほど。ちょっと意外でした。建築のプロの方なので、現実では出来ない建築物が自由に作れる、といったこととかに魅力を覚えていらっしゃるのかななどと想像していました。作るのは建築物ではなくて、空間なんですね。


・Vtuberの動画でVRChatを見てVRChatを始めるというすごくダイレクトなVR開始のエピソード。
■建築の3DモデリングとVRChatの3Dモデリングは違う
――VTuberのVRChat動画がきっかけでVRに強く興味をお持ちになられた。となると早速VRシステムを購入されたのでしょうか。

――プロの建築の方ですから、3DモデリングやCADを扱われていたと思うので、最初からVRのモデリングもお手の物だったのでしょうか。

――そうなんですか!

――3Dモデリングでも用途が違うと別モノなんですね。

■まずはアバターがないと落ち着かない
――意外にも別物だった3Dモデリングですが、まず最初に作られたのはやはりアバターでしょうか。

――金髪のこちらのバージョンが最初に作られたアバターなんですね。

――その時に使った3Dモデリングソフトは、やはりVRChatユーザーが大好きな・・・

――やはり苦戦されましたか。

――しかしソフトウェアの使い勝手が違うとしても、工数と上手いやり方の目算を立ててあたられるあたりは手慣れている感じですね。

――VIVEを購入されたのが2018年4月。まずはデフォルトのアバターでワールドを周ったり、フレンドを増やしたりされたのでしょうか。

――こう、アイデンティティを確立しないと、みたいな感覚ですね。

――ワールドのアップロードも即試されていたんですね。アンコールワットのモデルがあったんですね。

――ワールドのアップロードを試したりしながら、モデル改変を完成させたのはいつ頃だったのでしょうか。


・近しいスキルを必要される業界のプロも困惑させるさすがBlender。きっとVRChatユーザーはみんなBlenderがダイスキデダイキライ。
■VRのあるヤバイ時代
――そしてそのあとにこの「Visionnaire」の制作ですね。こちらの制作はどれくらいの期間がかかったのでしょうか。

――制作期間もうろ覚えなのですか(笑)しかしかなり手間がかかりそうなイメージですが。

――VRに空間に魅力を感じたので、自作ワールドを作ってみようとなった訳ですが、そこでニュートン記念堂を選ばれたのはエティエンヌ・ルイ・ブーレーのファンだったからでしょうか。

――色々なパターンのアンビルトがあるんですね。

――VRであることに意義があるというか。土地も建築工法も建築コストも現実では出来ないことができますからね。

――ちなみに18世紀の建築作家、エティエンヌ・ルイ・ブーレーが、VRのある現代に来たら大喜びするんですかねえ。

――現代人には3Dモデリングなどのツールがあるのに対して、18世紀になにも環境がないのに妄想で絵を描いてしまうのはすごいですね。

――こういったアンビルトは、作ることは出来なかったり作られなかったりしたものですが、建築史では軽んじられずに残っているものなんですね。

――そうものが具現化できてしまう時代なんですね、今は。

・申し訳ない。
■Table of Nuclides「立体核図表VR」
――そして番匠カンナさんは、次に「立体核図表VR」というワールドを制作されることになるんですね。こちらはどういった発想から生まれたものなのでしょうか。

――当たり前!

――空間でないものを空間にする。

――立体核図表がなんなのか言葉を聞いても分かりません。

――かなり複雑な図になりそうなんですが。

――3日で作ったんですか!

こちらの「立体核図表VR」はとても多くの方が関わって作られています。
VRChatでの制作活動は、その意義や革新性とは裏腹に、認知がVRChat界隈のなかだけで留まりがちです。
そこで番匠カンナさんは「立体核図表VR」制作の経緯をご自身のnoteにまとめられています。
VRアカデミアのDiscordでのやり取りなども掲載されており、大変面白くわかりやすいため「立体核図表VR」についてはこちらのnoteをぜひご覧ください。
さらにこのまとめを見た科学方面の方からお声がかかり、科学シンポジウムでの登壇をされました。
2019年3月2日開催
見える化シンポジウム2019 バーチャルでリアルを超えろ ~難解サイエンスを映像で感覚的につたえる~
しかも生身ではなく、VRで「番匠カンナ」が登壇するという形でした。
これが2019年です。
■VR Architecture Contest 00「第0回VR建築コンテスト」
・こちらはコンテストのポスター。ワールドに入ってすぐの場所にも大きく掲示されています。
――さらに番匠カンナさんは「第0回VR建築コンテスト」を開催されています。

――多くの参加者の方から作品が集まり、素晴らしい企画でした!

――VR建築コンテストは、昨年のいつ頃にどういった経緯で開催することになったのでしょうか。

――xRArchiはどういったグループなのでしょうか。


・番匠カンナさんのアバターが身に着けているバッジ。上が建築系コミュニティの「xRArchi」
そして下がVRな人たちがためになる知識をお話したりするコミュニティ「VRアカデミア」のものです。
――xRArchiの活動の一環として、番匠カンナさんを中心に第0回VR建築コンテストを開催したんですね。

――最初のVisionnaireの話のようですね。スペースや費用が大きく軽減されますし、まさにエティエンヌ・ルイ・ブーレーのドローイングのようなアイデアも形にして体験できます。

――ワールドに入るとまずは空に浮いた島の会場を遠くから眺められる場所にでます。そして遠くに見える木を「掴む」と木の根元まで一気にテレポートするという、とてもVRらしい面白さがある入場演出ですね。

・はるか遠くに見える木をクリックするとそこへ一瞬で飛ぶのは、とても直感的で面白さと気持ちよさがあります。
――このコンテスト会場の中央に大きな木があるデザインはどういった意図なんでしょうか。

――ジェバンニが一晩でやってくれました(笑)

・とかくVRの世界の人達のスピード感は速い、速すぎです。
――ポスターの絵といまこの場所、同じものなんですね。そんな会場に60ほどの作品が集まり、配置されたんですね。

――どういった方からの応募だったのでしょうか。

――両方の界隈から応募があったんですね。

――建築界隈の人にVRへ来てもらい、VRに挑戦してもらいたいという意図もあったんですね。そこで「第0回」と題しているんですか。

・このコンテストの開催は、VRChatの制作者の作品発表の場としてだけでなく、建築系の人達をVRへ誘うという意図があったという。
――新たにVRを始めてもらいたいというこのコンテストのほかにも、VRで制作活動をされている方は知識や技術を公開して他の人にもVRをもっと広げたいという方がとても多い印象ですよね。

――建築業界だと違うんですね。

――そうですよね。企業秘密だったり飯のタネだったりしますよね。

――エンジニア系の方はそういう文化がありますね。

――あとは純粋に、自分が作って楽しいので、ほかの人が作ったものも見たい、という声をよく聞きます。一人で自己満足よりもどんどん広がって、新しいものの萌芽の時に立ち会っている感じがあります。

――2018年に一気にVR創作が盛り上がりました。交流が盛んになったり、自作3Dデータの販売が流行したり。

――VRChatはアーリーアクセスですし、新たに凄い求心力を持ったプラットフォームの登場もないとは言えませんね。
■バーチャルマーケット2会場設計を担当
――そして3月8日から開催のバーチャルマーケット2の会場の一区画の設計を担当されています。

――これは主催からオファーがかかったのでしょうか。

――モスコミュールさんは、第1回バーチャルマーケットの会場設計を担当されていた方ですね。モスコミュールさんとは面識があっての推薦だったんですか。

――これまでのスピード感からすると、このバーチャルマーケット2のお話が来た時も即座に・・・

――即断!

――第1回は80ブースほどが出展され、今回は400強のブースが出展されます。そこで会場が分割されることになったわけですが、番匠カンナさんが設計されるバーチャルミュージアムにはどれくらいのブースが設置されるのでしょうか。

――準備が大変だと思いますが、楽しみなイベントですね。

・バーチャルマーケット2は、出展ブースはもちろん、会場のデザインも見どころです。
バーチャルマーケット運営の公式ページでは、デスクトップモードでのVRChatの始め方の解説をしています。VRシステムは必須ではありません。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にVRChatを始めてみてください。
■番匠カンナ建築設計事務所
――番匠さんのこれまでの活動と、直近に控えているイベントのお話をお聞かせいただきました。さらにその先の予定や、やっていきたいことなどはなにかあるのでしょうか。

――おおお!

――凄いですね! その構想だけで求人になりそうですね。VR技術者やVRに興味を持っている建築士がコンタクトをとってきそうですね。

――ここ最近、VRに興味を持ったことから得た知識や技能で、VRやIT関連に就職するという話は聞くようになりましたが、それとはまた一線を画していますね。ご自身の本職にVRを組み込むというのは。

――今後のVRでの活動をお尋ねしたら、VRとリアルを繋ぐ答えが返ってくるとは本当に驚きました!

・科学シンポジウムの時には「番匠カンナ」名義での登壇でしたが、リアルの建築設計事務所はどういった名義で活動されるのか気になります。
■マルチなVRのための空間建築
――個人的には、VRの制作というと現実では出来ないことをするもの、というイメージだったんです。
ですがこのワールドの入り口に設置されている審査員長総評の
「VR建築ってなんだろう。その場所、その家の中で人々が会話をしたり楽しい思い出を作れるということは間違いないこと」
という記述がすごく印象深いです。これは一番最初に見たVRChatの、人がいてこその空間というところから来ているんですね。

――なるほど。人がいてこその空間。マルチだからこそ生きていて楽しい。その楽しさの一助になるのが空間建築なんですね。

――長いお時間をいただき、とても面白いお話をありがとうございました!

・マルチじゃないVRには興味がない。番匠カンナさんの、交流があってこその空間設計という考え方や、VRアカデミアやxRArchiの方たちとの技術交流、コラボ活動の素晴らしさが込められた一言でした。
【Virtual Beingsインタビューシリーズ】
#01:月刊エモいワールド制作者 落雷さん(rakurai5)
#02:合同VR作品展示ワールド「Beyond Reality」
#03:VR作品展主催者 ヨツミフレームさん(y23586)
#04:Voxelモデラー・Shaderクリエイター Karasuma-Kuroさん(Karasuma-Kuro)
#06:VRイベントクリエイター カズユキ ハルノさん(カズユキ)
#07:VRライブ奏者 らくとあいすさん(RAKU_PHYS)
マル知る!では今後もVRに関わる方々のインタビューを行っていきたいと考えています。
・VRChat用のアバター、ワールドの創作活動を行っている方。
・VRChat上でイベントを企画開催している方、VRChat初心者への案内を行っている方。
・VRに関する技術、機材を扱われている、研究されている企業や団体。
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